【読書録】ヒトラーとナチ・ドイツ

今年の読書のマイテーマは・・・「基礎からナチス」!

マニアな研究書を手がけておきながら、実は教科書レベルの知識も怪しい状態なので(汗)、心を入れ替えて基本書を順番に読んでいくことにしました。いまからでも遅くはない! 間に合う…はず…(-。-;!

ということで、まず1冊目はナチスドイツ史の入門書決定版として名高いこちらです。

石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』講談社現代新書、2015年

早速だけど、読んで本当によかった。

なにがよかったかというと、いままで特に系統立てずに読んできたナチス関連の書籍の内容が一気につながったこと!

ヒトラーの生誕から、青年期、ナチ党の結成、第一次世界大戦後や世界恐慌でのヴァイマル共和国の危機的状況、1933年1月の首相就任、その後の急速なナチ化、第二次世界大戦の勃発、ヒトラーとナチ党のレイシズム、ユダヤ人やマイノリティの絶滅政策まで、最新の研究動向の紹介も挟みながらのわかりやすい通史解説が天下一品。

「なぜヒトラー独裁政権が生まれたのか」って、少なくとも19世紀後半まで遡らないとわかんないんだなぁ。。ということがよくわかりました。

本書では、ヒトラー生誕〜ヒトラー政権成立まで〜政治や社会のナチ化、そしてレイシズムと優生思想、ホロコーストに至る過程に重点が置かれています。

・国民社会主義ってこうやって生まれたのか・・・

・ヒトラー首相就任前夜のドイツ農民の置かれた状況ってこんなに苦しかったのか・・・

・ヴァイマル共和国の憲法と議会制民主主義が破壊されていく経緯や背景ってこういうことだったのか・・・

・強制的圴一化(グライヒシャルトゥング)ってそういうことだったのか・・・

・ヒトラー政権下の反ユダヤ立法ってこんなに過酷だったのか・・・・

などなど、知っておいたほうがいいこと満載。

紙面が真っ赤かになってしまいそうなので、線を引くのはやめときました。

ナチ党が全国進出するにあたって、弁士を育てるために弁士養成学校を開いてたっていうのも初めて知りました。

通信教育とスクーリングを組み合わせたもので、受講生は「受講料と引き替えに隔週で郵送されてくる教材(演説文作成のコツや注意点を記した教科書、模範演説と練習問題など)を学習して、解答を返送すると、教員による添削済み答案が戻ってくる仕組み」。これを何度か繰り返して、各大管区(ガウ)で有力弁士の直接指導を受けてコース修了、というシステムだったそうです。

思わず進●ゼミや放●大学を連想しますが、この仕組みによって、1929年の開校から1933年までに約6000人もの全国弁士が誕生。「1930年9月の国会選挙では、選挙戦最後の四週間に三万四〇〇〇回の選挙集会が予定され[…]鍛え抜かれた「話す言葉」の達人たちが一人残さず投入され[…]効果をあげた」とあります。

ヒトラーが反ユダヤ主義を強めていく過程も興味深かったです。

『我が闘争』では、貧しかったウィーン時代にすでにユダヤ人への憎悪を滾らせていたというように書かれているそうですが、実際は、当時、ユダヤ人の友人や上官などとの付き合いがあり、その後のミュンヘン時代に上官のカール・マイヤーが開いた政治・思想教育研修コースでの反ユダヤ主義の講師陣の影響が大きかったのでは、、とのこと。

独ソ戦、西部戦線ともドイツの劣勢が決定的となり、国のあらゆる資源を戦争に振り向けねばならないなかでも、強制収容所へのユダヤ人の移送を続けられたのはなぜか?

それはひとえに、ヒトラーがソ連のボリシェヴィキ政権やアメリカはじめ敵対する諸外国の背後に国際ユダヤ金融資本の謀略があると見ており、その強迫観念に最期までとらわれていたから。

わたしはどちらかというとこれまで、ヒトラーは国民統合と戦争の推進のために「あえて」反ユダヤ主義を煽っていたのかなぁとうっすら思っていましたが、彼は「ユダヤ人の脅威」を実在のものとして認識していた、ということですね。一国のリーダーが果たしてそんな妄想にとらわれるかなぁ??と一瞬思ってしまうけど、、そうなのかもしれない。こうした経緯を考えると、現代日本でユダヤ人陰謀説の本がいまもいっぱい出てる状況って、かなり異常に感じられてくる・・・

編集視点からも、外国語の表記の扱いがたいへん勉強になりました。

外国語の用語は、いつも、原語をそのまま、読みをカタカナ、日本語に訳す、のどれにするか(またはどれとどれを並記するか)で悩むけど、うまく二番目(読みをカタカナ)を盛り込むと、とっても読みやすい〜

ていうかこれ、検索できるから電子書籍で持ってても便利かも?! 昨日まで半額だったのに…!気づくのが遅かったのが悔やまれる〜

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東京外国語大学の小野寺拓也先生のツイートによると、この本と、リチャード・ベッセル『ナチスの戦争1918-1949 – 民族と人種の戦い』(中公新書)、ウルリヒ・ヘルベルト『第三帝国 ある独裁の歴史』(角川新書、近刊)が「ナチズム新書御三家」だそうです。

まずは御三家の残り2冊を読んで、、次はイアン・カーショーの『ヒトラー』(上下巻)とか? でも、ちょっと分厚くて挫折しそうな予感がある…^^;

ナチズムやヒトラーの歴史を追っていくと、共産主義やボリシェヴィズムの歴史も知りたくなりますね。

あと、やっぱ、ドイツ語を学びたくなる。(そしてロシア語も学びたくなるのだろう…)ボルマンがボアマンと表記されていたけど、原語に忠実にするとそうなるのぁな? 人名表記も時代や書く人によって採用基準が違ってくるので面白い。

さてさて、1年でどれくらい読めるでしょうか。