学術と妄想が融合するとき何が起こるか?2月6日新刊『SS先史遺産研究所アーネンエルベ』ご紹介!
目次
★本書『アーネンエルベ』の「試し読み」(目次・まえがき・索引・人名索引・訳者一覧・著者略歴)はこちら
★メディア掲載情報
◎『週刊ポスト』(2020年6月26日号、小学館)の「ポスト・ブック・レビュー」で本書をご紹介いただきました。「正しく読まれるべきタイミングでの出版」(本文より)。「【大塚英志氏書評】疑似科学、陰謀史観研究で暴走 謎の組織」(NEWSポストセブン)でもご覧いただけます。週刊ポスト編集部のみなさま、評者の大塚英志さん、ありがとうございます。
◎「新・山形月報!」(「cakes」連載)で本書をご紹介いただきました→「ナチスのオカルト研究所と隕石仏像」(2020年6月1日)。「ナチスの裏の顔がものすごい迫力で浮かび上がってくること請け合い」(本文より)。ご執筆者の山形浩生さん、ありがとうございます。
◎表象文化論学会ニューズレター『REPRE』で本書をご紹介いただきました。
ご掲載ありがとうございます。
◎『読売新聞』さん(2020年5月3日朝刊)の「本よみうり堂」で本書をご紹介いただきました。「本訳書はアーネンエルベの創立から解体に至る歴史(1935~45年)を明らかにした画期的労作だ。脚注を含めて800ページにも及ぶ内容は評者の予想をはるかに上回っていた」(本文より)。読売新聞オンラインでもご覧いただけます。読売新聞さん、評者の進化生物学者・三中信宏さん、ありがとうございます。
◎『日刊ゲンダイ』さん(2020年4月14日号〈13日発行〉)で本書をご紹介いただきました。「ナチ親衛隊の付属研究所をめぐる奇書…法外な価格だが、オタクに独占させるには惜しい内容が満載されている」(本文より)。「本で読み解くニュースの深層:いま、なぜナチス?」(日刊ゲンダイDIGITAL)でもご覧いただけます。日刊ゲンダイさん、ありがとうございます。
◎『月刊ムー』さん(2020年5月号、学研)で本書をご紹介いただきました。「ナチス・オカルティズムの研究者にとって待望の書」(本文より)。「ムー民のためのブックガイド」(ムーPLUS)でもご覧いただけます。月刊ムーさん、ご執筆者の星野太朗さん、ありがとうございます。
ナチスドイツで親衛隊(SS)が創設した謎の研究機関〈アーネンエルベ〉。
その真相はこれまで謎に包まれ、「失われた聖杯を密かに探していた」「地下帝国シャンバラの調査を行っていた」「魔女術や黒魔術などオカルティックな研究をおこなっていた」などの噂だけがまことしやかに語られるだけでした。
*2019年12月公開のアニメ映画『ルパン三世 THE FIRST』では秘宝を狙う悪役として登場するランベール教授は元アーネンエルベの研究者という設定だそうですね。映画館での上映を身逃してしまったので残念です〜(地域によってはまだやってるようです!)。
この知られざる組織アーネンエルベの全貌を実際の史資料にもとづき歴史学の手法により初めて明らかにしたのが本書です!
こちらのページでは本書の読みどころ、関連書籍、出版記念イベント、そして気になる(?)本書出版の経緯まで、本書の関係情報をまとめました。
〈アーネンエルベ〉とは?
「アーネンエルベ」は、ナチスに忠誠を誓う党員のだれよりも、1933年から1944年までのあいだにその支配権を国民社会主義的国家の考えられるかぎりすべての生活領域へと押し出して、親衛隊の政治権力も精神的な生活領域へと拡大しようと試みるハインリヒ・ヒムラーの原動力となった。
本書「まえがき」より
1935年、ナチス親衛隊(SS)全国指導者ハインリヒ・ヒムラーの主導により、ドイツ先史時代の精神史研究を目的として設立された研究機関です。
当初はゲルマン民族の歴史・民俗を主に研究したが、次第にオカルティックな研究を含め、ユダヤ人を使った人体実験や気象学、化学、軍事研究などの分野にも拡大し、大学への介入も強めながら、ドイツ支配地域に多数の支部を有する巨大機関に発展。
1945年のナチス・ドイツ崩壊に至るまで、親衛隊のアーリア=大ゲルマン帝国構想の推進においてきわめて重要な役割を果たしました。
学術か妄想か?膨大な史資料から明かされる驚愕の研究の数々
原著者のミヒャエル・H・カーター本人は、ナチスのオカルト都市伝説をいっさい認めようとはせず、それを捏造しようとするテレビ局関係者を一蹴しているのは、「第2版へのあとがき」にあるとおりである…そうでなくとも、本書に記されたアーネンエルベの学術研究の内容には、事実の部分だけでも充分に興味深い記述をみいだせるのではないだろうか。 廃城に伝わる伝説を真に受けて、数ヵ月間、廃城の敷地内をダウジングロッドで金鉱脈を探索したり(第7章)、ハンス・ヘルビガーの「宇宙氷説」の科学的信憑性を肯定したり(第3、5章)…
「監訳者解説」より
インドゲルマン先史学・ルーン文字・紋章学・北欧神話・チベット探検・宇宙氷説・人種論・遺伝学・ダウジングロッド・秘密兵器開発・強制収容所での凄惨な高空・低温医学実験…この本が明らかにするのは、アーネンエルベが展開していた人文・社会科学、自然科学のあらゆる分野での驚くべき研究の数々です。
アーネンエルベ設立にかかわったヘルマン・ヴィルトのドイツ先史研究、洞窟・地盤研究、エードゥアルト・マイの害虫駆除研究、ジークムント・ラッシャーの凄惨な医学実験、アウグスト・ヒルトの解剖学研究、ブルーノ・ベーガーによる頭蓋骨収集…などなど、ざっと本編をさらうだけでも、ありとあらゆる研究プロジェクトが登場します。
それらはオカルト都市伝説で囁かれているようなナチスのUFO開発や地球空洞説とはちょっとちがうものです。著者のカーター氏も「第2版へのあとがき」で根拠に乏しい陰謀論を否定しています。
が、疑似科学的なヴィジョンを基とした研究が組織的に遂行され、文化政策内の”異物”を取り締まる警察機能を与えられ、非人道的な実験に及んでいく--これらのことが、実際の公文書や書簡にも記録され、当時の制度内で合法的に行われていたという事実には、ある意味、陰謀論を超える肌寒さを覚えます。
原注、年表、略語一覧、索引も充実。ナチスドイツ史を研究する方をはじめ、読者の皆様のさらなる探究に役立てていただけるかと思います(☆`・ω・)ゞ
アーネンエルベの3人の立役者--ヒムラー、ヴュスト、ジーファース
…1942年6月に暗殺された高級警察官僚で将校のラインハルト・ハイドリヒのような人物でさえも、[本書においては]あくまで脇役としての位置づけなのだった。このように、一般的に知られていないヒムラーの側面、ジーファースとヴュストという日本ではほぼ未知に等しい人物をメインに書かれている本歴史書は、それゆえの難解さがあるものの、だからこそ、新奇な歴史的事実との遭遇が本書に散在しているのであって、そこに本書の価値があるといえよう。
「監訳者解説」より
本書の中心となるのは、親衛隊全国指導者としてユダヤ人絶滅政策を推進し、オカルト・神秘学への傾倒でも知られるハインリヒ・ヒムラー、著名インドゲルマン学者でミュンヘン大学長も務めた事務局長ヴァルター・ヴュスト、そして陰の実力者、全国運営責任者ヴォルフラム・ジーファース。この3人の人物を軸としてアーネンエルベの歴史、組織構造、研究の複雑な様相が描き出されていきます。
ナチス高官のなかでもヒムラーは有名ですが、ビュスト、ジーファースの名前はなかなかお目にかかることがないのでは? 彼ら3人とヒトラー、リヒャルト・ヴァルター・ダレやカール・ヴォルフをはじめとするナチ党高官やアーネンエルベの研究者たちとの駆け引きとせめぎ合い--これも本書の読みどころのひとつです。
スカンディナヴィア、クリミア、コーカサス、中央アジア、チベット、満州国…ゲルマン人、アーリア人の始源を求めて彼方まで広がる触手
アーネンエルベはゲルマン人やアーリア人種の故地やかつての文化遺産を探し求めて、ドイツ国内だけではなく、スカンディナヴィア、オストマルク(併合後のオーストリア)、チェコ、オランダ、ウクライナ・クリミア・オストラント(現在のバルト三国)などの東部占領地域、果てはコーカサス、近東、中央アジア、満州国にまで調査の触手を伸ばしました。
有名なのはチベット学者エルンスト・シェーファーが親衛隊の肝いりで敢行した(といわれている)1938年のチベット探検でしょう(これについては本書第3章・第7章で記述されています)。筆者も、かつて訪れたジョージアの山岳地帯でドイツ兵士のお墓の横を通り過ぎて、「ドイツ軍、こんな遠くまで来たんだ」とびっくりした覚えがあります。第7章では、ヒムラーがポーランドで北欧民話に出てくるのにそっくりな白いたてがみの茶色の馬を目にしたことから、「ステップ草原に適応したスーパー名馬」の産出を思いつき、シェーファーが遠く中国まで調査の手配をする…という場面も出てきます。
アーネンエルベが立案した調査旅行うち、すくなからぬ計画が戦況や資金的事情により頓挫してもいますが、アーリア神話という幻が人を駆り立てる力の大きさには圧倒されるものがあります。
先史精神から軍事研究、やがて凄惨な人体実験へ…ナチス親衛隊のアーリア帝国構想の帰結
この組織の威嚇による脅迫からテロリズム行使までの過程は、総力戦で圧迫されている状況下ではただちに省略された。アーネンエルベは強制収容所の囚人で実験をおこない、ユダヤ人を個別に強制収容所へ追放するように指示した。かくして、この研究組織は犯罪の分野に手を染めていった。したがって、本書の著者にとってアーネンエルベという現象の研究が価値あるように思えるのは、ただその任務の多様性だけでなく、この組織がヒトラーの犯罪的独裁に寄与した最も従順な道具のひとつへと変容していったためでもある。
「まえがき」より
現代日本で本書を刊行する理由とは、ヒムラーという誇大妄想癖のある絶対的権力者によって、国家や 占領地の学術研究および大学などの研究機関がいかなる戦争犯罪に加担することになったかを教示してくれ ることにつきる。くわえて、この〈戦争と学術〉という問題は、軍事研究をめぐるモラルハザードとともに現代においても充分にアクチュアルなテーマであるはずだ。
「監訳者解説」より
1935年設立当初はゲルマン人の原史研究に専念していたアーネンエルベですが、第二次世界大戦の勃発とともに、軍事研究、文化財収奪、大学支配、そして強制収容所の囚人にたいする犯罪的な人体実験に手を染めていくことになります。アーリア帝国建設の夢を抱いた親衛隊そしてアーネンエルベの末路とは?本書は歴史の闇を光で照らし、現代日本にも大きな示唆をもたらしてくれることでしょう。本国ドイツでは内容の稀少性から刊行40年後も版を重ねる不朽のロングセラーとなっています。
まずはここから!「まえがき」「第2版へのあとがき」「監訳者解説」&「年表」
そのようなわけで第二次世界大戦史、欧州史、ドイツ史、ナチスドイツ史などにご関心がある方々には興味深い情報が盛りだくさんの本書ですが、なにぶん本文800ページのボリューム。最初から丁寧に読んでいくと全体像の把握になかなか骨が折れます。
そこでまず読んでいただきたいのが、著者ミヒャエル・H・カーター氏による「まえがき」と「第2版へのあとがき」、そして監訳者・森貴史さんの「監訳者解説」です。この3つに本書の大要や意図、構成があらかたまとめられているので内容の理解がぐっと容易になります。特に「監訳者解説」では、読者の皆様もご関心大なはずの「ナチスのオカルト伝説」にかんしての解説もあり、たいへん読みごたえのあるパートとなっています。
さらに、余裕のある方は巻末の「年表」を一読しておくことをオススメ!本文はけっこう時間軸が前後したりするので、「あ〜、こういう順序でこういうふうに事態が進行していったわけね」というのがここの部分を見ると一目瞭然です。
編集閑話:本書の誕生秘話
この本の出版企画が生まれたのは、今からさかのぼること2年半前のこと。
地元の本屋さんをふらふらしていたわたしは、新刊棚である新書に目を引かれました。浜本隆志さん(関西大学名誉教授)の『ナチスと隕石仏像 SSチベット探検隊とアーリア神話』(集英社新書)です。
さっそく読みはじめてみると、親衛隊のチベット探検隊が持ち帰った隕石製仏像のエピソードから、ヒムラーのアーリア神話にもとづくオカルティックな人種主義、秘密結社的な親衛隊の儀式などへと話が展開し、こういう話題が初耳だったわたしは「うわ〜、なにこれ超おもしろい!」と夢中でページをめくりました。その第9章に書かれていたのが〈アーネンエルベ〉のことであり(「第9章 ナチスのシンクタンク:アーネンエルベ(ドイツ先史遺産研究所)」)、その章の主な依拠先が本書の原著、ミヒャエル・H・カーター先生の Das “Ahnenerbe” der SS 1935-1945 だったのです。
「ぜひ読んでみたい」と思ったものの、どうやら原著のドイツ語版しかない模様。こんなに興味深い書籍がどうして未邦訳なんだろう?
そう思って、当時、フリーランスの編集者としてお付き合いがはじまったばかりの出版社ヒカルランドの石井健資社長に「この本の翻訳版どうですか?」と提案してOKをいただいたのが本書の企画のはじまりとなりました。
海外ものはまず翻訳者がいないとはじまりません。学術書のドイツ語が適切に翻訳できて、しかもナチス事情にも通じている方--これを満たすのはやっぱりこの本をご紹介されている浜本先生だろう、ということでおそるおそるご依頼差し上げたのですが、ご多用でお引き受けはむずかしいとのこと、かわりにご紹介いただいたのが本書監訳者の関西大学教授の森貴史さんでした。
さっそくお目にかかることになったものの、いちおう、陰謀論やUFOなどの書籍を多数刊行する出版社の所属という自覚はあったため、当日は「断られてもしょうがないかなぁ」という気持ちが7〜8割方。が、初めてお会いする森先生はたいへん気さくな方で「え、え、壺とか売ってないよね〜???」と警戒されながらも、趣旨をお伝えするとまさかのご快諾。あのときは心からホッとしました。
その後、森先生には、北原博さん、溝井裕一さん、横道誠さん、舩津景子さん、福永耕人さんという、いずれもドイツに精通する優れた共訳者の皆様をご紹介いただき、マニアックを極める本書のために、これ以上は望めないメンバーでのご翻訳を進めていただけることになりました。
2年間にわたる翻訳・校正作業のあいだにもいろいろなことが起こりましたが、それはまた別のお話…。
そんなわけで一部の皆様には「なぜヒカルランドでこの本??」と波紋を呼んでしまい申し訳ありませんでしたが、出版経緯は以上のような秘話ともいえないごくごくふつうのものでした。あえて不思議な点を挙げるとしたら、このような大冊の出版企画にふたつ返事でGOサインを出してくれたヒカルランド石井社長と、やはり本書の監訳をお引き受けくださった森先生や共訳者の皆さんかも…?(冗談ですっ)
出版社のサイトやAmazonで書籍告知を開始したあとは、Twitterなどでドイツ史や神話関係に詳しいたくさんの方々が本書の情報を広めてくださり、また、「楽しみにしている」というお声を寄せてくださいました。当初、初版部数3桁台も念頭に入れての価格設定でしたが、事前のご予約のおかげでちょっぴりですが値下げ(10780円→9900円)もかないました。
長くなりましたが、このように、さまざまな方のご協力がなければ、この本が世に出ることはありませんでした。この場を借りて篤く御礼申し上げます。
*
いかがでしたか?とっても分厚い本ですが、本屋さんで、図書館で、多くの方の手にとっていただけると幸いです。
AmazonやヒカルランドHP、または担当までぜひぜひご感想もお寄せください〜((∩´︶`∩))
(編集担当:小澤祥子)
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書誌情報
『SS先史遺産研究所アーネンエルベ ナチスのアーリア帝国構想と狂気の学術』
原題:Das “Ahnenerbe” der SS 1935-1945(発行:De Gruyter Oldenbourg)
ミヒャエル・H・カーター[著]
森貴史[監訳]
北原博、溝井裕一、横道誠、舩津景子、福永耕人[訳]
ブックデザイン:鈴木成一デザイン室
校正:麦秋アートセンター
DTP:株式会社キャップス
印刷・製本:中央精版印刷株式会社
発行:株式会社ヒカルランド
編集担当:小澤祥子
版権代理店:株式会社イングリッシュエージェンシージャパン
四六判上製/800ページ
2020年2月6日刊行
こちらもご覧ください(監訳者インタビュー)
望んだものと現実と-『SS先史遺産研究所アーネンエルベ』監訳者・森貴史さんインタビュー
あわせて読んでみよう!関連書籍
▼アーネンエルベにかんする稀有な紹介書、ヒムラーのオカルト人種論についての解説も
ナチスと隕石仏像 SSチベット探検隊とアーリア神話 (集英社新書)▼19世紀末ドイツに広がり、優性思想・民族主義・ナチズムとも密接な関わりをもつようになった〈裸体文化〉そして〈生活改革運動〉とは
踊る裸体生活: ドイツ健康身体論とナチスの文化史▼ナチスの人種政策とオカルトについての永遠の名作、アーネンエルベについての解説も有り
聖別された肉体―オカルト人種論とナチズム (ロサ・ミスティカ叢書)▼本書でも多数引用されているナチス親衛隊についての包括的解説書
髑髏の結社・SSの歴史〈上〉 (講談社学術文庫) 髑髏の結社・SSの歴史〈下〉 (講談社学術文庫)▼戦後70年、ますます拡大拡散の一途をたどる〈ナチスのオカルト都市伝説〉を紹介
ヒトラーの呪縛(上) – 日本ナチ・カルチャー研究序説 (中公文庫) ヒトラーの呪縛(下) – 日本ナチ・カルチャー研究序説 (中公文庫)▼ドイツ体系学とアーネンエルベのかかわり(第1章の「第四景:ドイツ体系学の系譜--体系の重み 1931〜1966」でアーネンエルベ所属の進化学者たちについて論じられています。(著者の三中信宏さんよりご教示いただきました。ありがとうございます)
系統体系学の世界: 生物学の哲学とたどった道のり (けいそうブックス)